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第二話 未完の決戦兵器


 碧い闇に支配された静かな海底に、一隻の軍艦が腰を降ろしていた。
 全長は二五〇メートルぐらいは有るだろうか? 潜水艦だとすると空前の超巨大艦であるが、その海底に息を潜めるこの大型艦は、通常の潜水艦のような流麗なシルエットとは幾分か異にするデザインで構成されている。
 全体的にかなり大きなブロック単位のモジュール構造となっており、あちこちから鋭角的なパーツが飛び出している。その潜水艦らしからぬ艦橋の真下辺りの艦体側面部はかなり肥大した作りになっていて、その部分には隠蔽開閉式の分厚いシャッターが取り付けられていた。
 巨大な水中安定翼らしきパーツも見えるが、水中機動用スタビライザーと言うよりは「飛行用の主翼」と言った方がいいぐらいの巨大なフィンスタビライザーである。
 水を突き抜けて進む事を目的とする通常の潜水艦とは程遠い艦容である。これだけ艦体がパーツに分かれていたらそのパーツ同士の隙間に海水が入り込んで動きが鈍るのではないだろうか?
 機動戦艦ともまた違う、不思議な印象を与える艦と言える。
 更に艦橋内に目を移すとその奇異さは、更に際立つ事となった。
 普通なら軍服を着込んだ将兵達が、数多く詰めている筈のその場所が、ローブに身を包んだ「魔導士達」によって埋めつくされているのである。
 そしてその艦橋内も軍艦の艦橋と言うよりは、呪導機のコクピットをそのまま大きくした様な印象を与えていた。潜水艦の艦橋も非常に狭いのであるが、この艦を司る艦橋内は重爆撃機のコクピット並みの広さしか無かった。その狭いスペースに六人の魔導士らしき者達が詰めている。
 あちこち精霊計や感応器等、呪導機特有の装備で埋め尽くされた艦橋内の、艦長席らしき場所に一人の男が座っている。
 片目が潰れていた。その失った左眼にはまがい物の瞳が付けられている。視力を補強する魔導器だ。
 そして他の乗員が一目見て魔導士と解るローブに身を包んでいると言うのに、この男だけはその身体を鉄製の鎧で覆っていた。脇には軽く二メートルは越えるであろうグレートソードの入った鞘を立てかけてあった。普通に見れば剣士なのだろうがそうとは素直に言い切れない雰囲気をこの男は醸し出していた。
 魔導士を従えてこれだけの大艦を動かしているとするとこの男は、剣士と魔導士の力を併せ持つ戦士「魔法剣士」なのかも知れない。
 その艦長席の男が口を開いた。
「……随分な大型艦だな……新型艦か?」
 この謎の潜水艦の潜む海底の上を、一隻の軍艦が航行していた。それもかなりの巨艦だ。この正体不明の大型潜水艦をも遥かに超える大きさである。
「帝国軍の既存艦艇といずれも一致しません……しいて言えば先頃発表されました『大和級戦艦』と艦首部や艦橋部等、酷似した部分も見られますが……」
 一年程前に「大和級重機導戦艦」は、龍樹帝国の誇る大型戦艦「甲鐵級巡洋戦艦」の後継として「龍樹帝国海軍通常型新型戦艦」として内外に発表されていた。枢機軍側はいまだに「大和級」の事を「一応陸の上も走れる大型戦艦」ぐらいの情報しか得る事が出来ないでいた。
「……推定全長四〇〇メートル以上、推定排水量二〇万トン以上、艦形からすると航空母艦の模様」
「かなりの大型艦だな。赤城や加賀の様な重空母の系列か?……しかし帝国海軍は何時の間にあんな物を作っていたんだ?」
「解りません……」
 やはりアリシアも言っていた通り、帝国軍の情報統制と言うものはかなり完璧に行われているらしい。
「どうしますヴァッシュ卿? この偵察記録だけ持ち帰ってもかなりの戦功と成りますが?」
「……あの大型空母、飛行甲板が半分しか付いていない。多分場所を変えて残工事を行うため、工事未了のまま航行しているのだろう」
 海上に出した通信筒から入る、敵艦を捉える映像に見入りつつ、この謎の潜水艦の艦長、魔法剣士ヴァッシュガーランドが答える。
 敵艦は本境地のすぐ近海と言う事もあり、護衛艦の一隻も付けていなかった。この艦がこれから行うべき行動の答えは直に出た。
「こっちも未成なのは変わらんが、こんな敵地の近海まで無理をしてステルステストに来た甲斐が合ったものだ。」
 作り物の左眼に妖しい光が灯る。
「これは一発大物食いのチャンスか」
 ただらぬ雰囲気を漂わせる、この作りかけの艦を預かる魔法剣士は、あくまで冷静さを保ったまま素早く指示を出した。
「離床の後、微速前進、敵新型空母の頭を抑える位置に移動する」
「了解!」










「ふわぁ〜」
 火器管制士席に座るヨーコが、女の子らしく口に手を当てつつ、可愛くあくびをしていた。
「どうしたヨーコ? 眠いか?」
 ヨーコの火器管制士席の、丁度後ろぐらいに設置されている副艦長席に座る副長が声を掛ける。
「エヘヘ、ちょっとね……本当は出航が決まってから幾らか仮眠でも取ればよかったんだけども、洗濯物とか取り込んでたから、全然寝てないんだ」
 ヨーコが副長に向かって振り向きながら、照れくさそうにそう答える。
「……眠いんなら、寝てきても良いぞ?」
「大丈夫だって、KL区まで後5時間ぐらいでしょ? ミカとおしゃべりしてれば直ぐ着くワ」
 これから受領予定の支援空母の最終報告書のチェックをしていた通信士のミカは、エルフ族特有の長い耳をぴくっと動かしながら「ん?」と言う表情を作った後、火器管制士席の右隣に設えられている通信士席から二人の会話に加わるべく、報告書を下に置いた。
「フフフ、でもさ、私達みたいなポジションは良いとして、運転手のログとかはどうすんの?」
 ヨーコとミカの座る席の前、この艦橋の最前列に操舵士席が設けられている。
 ログと呼ばれたこの「巨艦」の操舵士は、後ろで会話が盛り上がるのも気にもせず、「不言実行」と言う言葉を実践するかのように無言のまま舵を握り続けている。
 彼が極端に無口なのはもうみんな既に解っているので、ログが自分の事を話題に出されても振り向きもせず自分の仕事に詰めていても、今となってはもはや、だ〜れも気にしない。
「はははは、そん時は俺か艦長が操縦するよ……って、あれ!?」
 そう良いながらこの艦橋内の最後部、自分の副官席の右後ろにある艦長席に振り向くと、この艦の主、そう、あの「ぽよ〜んとした艦長さん」がいなくなっている事にその時初めて気が付いた。
「艦長は!?」
「ん〜? リュウガならさっき、どっか行ったよ〜?」ミカは先程報告書を取り出す為に後ろを振り向いた時丁度、艦橋からそっと出て行くリュウガを目撃していた。
 ……しかしこの副長さんも、一応黒龍師団に籍を置く程の凄腕の騎士なのだが、その副長にすら悟られず姿を消す事が出来る、このリュウガと言う背の高い女の子は、やっぱり只の天然ぼけのおねーさんではない様です。
 その時、ドアの開く音が聞こえた。
 噂をすれば影と言う事で、艦橋後面のドアが開くと右手にお盆を抱えたリュウガが、頭をドアの敷居にぶつけないようにちょっと身を屈めながら艦橋に入ってきた。胸にはエプロンをピシッと身に着け、何だか軍艦の中らしからぬ出で立ちである。
 お盆の上に目を移すと、ほかほかと湯気を立てるアルミ製のマグカップが五つ程乗っていた。
「夜食持って来ましたよ〜」
 その声に艦橋にいる全員が振り向いた。さしものログもリュウガの可愛い声には反応するようで、少し振り向いた。
 時計を見るともう二四〇〇時を回っていた。帝国府を出航したのが二〇〇〇時ぐらい、今日は乗員の全員が、規定時刻通り一八〇〇時ぐらいには夕食を取っていたので丁度今ごろお腹が空く時間だった。
「わ〜い」女の子組から黄色い歓声が上がる。
「はい、どうぞ」
 とりあえず一番近い位置にいる副長にマグカップの一つを差し出す。今日の夜食の献立はあずきとお餅のいっぱい入ったおしるこだった。疲れた体には糖分と炭水化物が良く効きます。
「申し訳無いよね、上官にこんな事してもらっちゃってさ」
 少し遠慮気味にスプーン(勿論先割れ)のささったマグカップを受け取る副長。
「な〜に言ってるんですか、わたし達同期じゃないですか。それにこの艦がふつ〜に進んでる時はわたしが一番ヒマですからネ」
 そう良いながら顔中嬉しさ笑顔のヨーコとミカにも、おしるこの入ったマグカップを差し出す。
 最後に最前部に座るログの手に夜食を渡す。「不言実行」のログも流石にリュウガが相手だと少し照れたような表情を見せる様です。一寸ドギマギしてます。
 艦橋の中程に席を並べて座る女の子組が、甘いおしるこを口に運びながら会話を弾ませ始める。
「ほ〜んと、らしくない艦長さんだよね〜うちの艦長さんは」
「フフフ、まぁ昔から、あーだけどネ〜」
 これにあと一人加われば「姦しい」に成るのだが、その三人目であるリュウガにしてもそれ程おしゃべりではないので、あんまり姦しいにはならないみたいです。





 左手に食べかけの夜食の入ったマグカップを持ちながら、リュウガが艦橋に付けられた分厚い防弾ガラスから外を見つめていた。……良く見るとエプロン付けっぱなしですね……。
 艦長席に普通に収まるリュウガの元に副長がやって来た。
「リュウガ」
「はい?」
 副長は一寸沈痛な面持ちだ。
「……二日前に戦闘を終結した東部方面軍の最終報告書は、もう読んだか?」
 リュウガは思いを巡らすように目をつぶりながら副長の問いに答える。
「ええ、読みましたよ……表向きには本陣が敵艦の突然の襲撃に合い、三隻の主力艦が共に大破、総将、蒼龍艦長の生死が解らない状況の中、最先任になったアリシアがまだ何とか動ける武蔵を使い劫火砲を強行使用して戦線を立て直し、そのまま全てを焼き払い強引に終結させたとなってるんですよね……」
 リュウガの閉じられた瞳には、燃え上がる焔の中にそそり立つ、アリシアの騎乗する「黒き雷光」が見えていた……。
「でも本当は、劫火砲が使用されたという事はそれを使ってまで消さなければいけなかった事実が合ったという事……そしてそれはアリシアの艦が『機械神』になってまで暴れなければいけない状況になったという事……」
 リュウガがゆっくりと瞳を開く。
「……機械神を使用した場合、例えどんな状況でも、やはりそこまでしなければならないのか……?」
 副長が問い返す。
「……そうですね、本当は存在しない筈の兵器ですからね『黒き雷光』も、そしてこの『黒き龍焔』も……」
 黒き龍焔……今はまだいない十三番目の機械神の名前……
 二人の会話の手前では、眠そうになっているヨーコのフサフサとしたほっぺをむに〜っとミカが引っ張ってたり、更に手前ではログがぎこちなく先割れスプーンを使ってむに〜っとお餅を食べてたりするのだが、この巨大空母の二人の指揮官の目には全然入ってない様子だ。
「本当に必要な時が来るまで『機械神』はその存在を知られてはいけない……それが皇帝の意思です」
 リュウガが再び、窓から見える静かな海原に目を移す。
「『機械神』を見た全ての者を消去せよ。これは勅命であり、全ての責は私にある……これが皇帝の言葉です」
「……」
「陛下の直接の命令って少ないですけど、どれも何時も機械計算機の様に正確ですよね……その姿を見た者を全て殺してでも秘密を守らなければならないと言う事も、何か重要な意味があるのでしょう……」
 副長も何時になく深刻な顔付きになっている。
「良い人も悪い人もみんな殺さなければいけない……この機械神を与えられたからには……」
「……リュウガみたいな優しい奴の口からは、そんな台詞、聞きたくなかったな……」
 任務には常に実直な副長が、珍しく本音を呟いた。
 その台詞にリュウガが少し微笑む。
「仕方ないですよ、わたしも遊びで戦いをやってる訳じゃないですからね……」
 アリシアと同じ台詞を呟くリュウガ。
「アリシアも仕事を終えて、今ごろKL区に向かってる頃ですね……久しぶりにご飯でも一緒に食べたいな……」





 しばらく何事も無く航海が続いた。
 変わった事と言えば流石に眠気に耐え切れなくなったヨーコが毛布を被って仮眠を取っているのと、副長が操舵をログから変わったと言う事ぐらいである。
 ログはと言えば、自分の席に就いたまま腕組みをして目をつぶっていた。
 ヨーコと同じく眠っているのだろうか? と、リュウガが風邪を引かない様に毛布でも掛けてあげようかとゴソゴソしだした時、順調だった航海に行き成りの変化が訪れる。
 突然の衝撃。何か巨大な物が艦体に叩き付けられたような大きな音がこだました。
「?……なんか魚雷かなんか当たったみたいですケド?」
「当たってるんだってば!!!」
 艦長殿のとぼけた台詞に「もーっ」っと言った感じで返しを入れつつ副長が大慌てで指示を出す。
「ミカ! 被害は?」
 ミカがちょっと眠くなってた目をぐしぐし擦りながら、てきぱきと情報を取り出し始めた。その隣ではヨーコが毛布を跳ね除け飛び起きて、火器管制システムを立ち上げている。信濃本体の操舵もすでにログに代わっていた。
「はい、右舷後部に潜水艦クラスの大型魚雷が四発被弾。損害その物は装甲が多少へこんだ程度。自己修復可能レベルです」
 普通「潜水艦級の大型魚雷四発被弾」と言ったらあわや轟沈と言った程の被害だと思われるが、この艦にとっては「装甲が多少へこんだ程度」と言うのは、一体どれだけ重装甲なのだろう、この信濃と言う軍艦は……?
「どうします? マニュアル通り死んだふりしますか? ……ん? ちょっと、まって!?」
 適切な報告が続いたミカがはじめて言いよどんだ。
「敵艦、本艦の二時の方向へ海中を移動中、推定海中速力四〇ノット!!」
「うそーっ」
 隣でヨーコが驚きの声をあげる。
「艦長……これは……」
「……機動戦艦……」





 とりあえず右舷に傾いて見せたりしてダメージを受けた振りをしている巨大空母の右舷前方に、ゴボゴボと猛烈な勢いで、二酸化炭素を大量に含んだ泡が海面に溢れ出した。
 次の瞬間、巨鯨を思わせる迫力を持って、今まさに信濃に四発もの魚雷を当てた当の本人がその姿を現した。
 潜水艦と言うにはあまりにも巨大な大型艦が、間髪入れず信濃に迫る。
「敵艦浮上! 距離二万メートル!! 敵艦更に接近中!! 敵艦かなりの大きさです!! 推定全長は二五〇メートルを超えます!!」
 浮上の衝撃も物ともせず高速で獲物に向かう、この大型潜水艦の大きく左右に張り出した艦体中央部に設けられた隠避式大型ハッチがその名の通り、前後に分かれて艦内に埋め込まれるように収納されていく。
 大型ハッチによって守られていたその空間には、呪導機の両肩に据えられている「魔導器」の様な魔法増幅器らしき物が内蔵されたいた。
 中央部には巨大な水晶球らしき物が設えられ、その周りには巨大な歯車と共に、何本もの太い動力パイプが蠢いていた。そしてその巨大な魔導器が轟音を立てながら艦外に顔を出して行く。
 攻撃位置に移動したと同時に大型の歯車が回りだす。それと同時に艦体内部カートリッジに備えられる「呪封筒」の一つが魔導器に装填される。そして中央の巨大な水晶球に凶々しき光が灯りだした。
「何時でも発動可能です」
 攻撃参謀を務める魔導士がヴァッシュに準備完了を告げる。
「良し、呪文は『ライトニングボルト』を使う」
「了解!」
 巨大な水晶球に灯りつつあった光が、急激にその明るさを増し一瞬爆発的な光を発したかと思うと、次の瞬間、それは二条の雷光となり天に向かって放たれた。
 その雷光はすぐさま宙で折れ曲がり、二十七ノットの速力で進む巨艦に向かって突き進む。
 信濃両舷の海面に着弾したその雷光は、凄まじい衝撃波をもってこの巨大空母を大きく揺さぶる。
「!!!」
「着弾!! 初弾から夾叉されました!! それにこれは……」
 ミカの顔が青ざめ始める。
「雷撃の呪文です!!」
 ミカの報告と共に、今実際に自分の目で見た紛れも無い真実に息を呑む艦橋内。
 だが艦長のリュウガだけは普段と変わらず冷静に「まだ見ぬ超兵器」を積む敵艦を見つめている。
「……あれはこの間の魔導師団の報告書に合った、枢機軍の新型魔導兵器……」
 落ち着き払った表情のまま、記憶の引き出しから情報を取り出す。
「機導戦艦級の艦体に呪導機の機能を詰め込んだ……動く魔導要塞……」
 枢機軍試作型大型ステルス機動潜水艦……これは表向きに発表されている形式であり、その実は……『呪装艦 アーチャーフィッシュ』それがこの謎の潜水戦艦の正体だった。
 体中に魔導兵器を満載した「呪装艦」から、弐の矢が放たれる。
 波立つ海面に打ち込まれる巨大な雷光が、この未完の超空母を翻弄する。
「……敵の着弾が正確さを増しています!! 次は確実に当たります!!!」
 ミカの叫びを、先程と何も変わらない冷静な表情のまま聞いていたリュウガが、ボソッと呟いた。
「副長、リミッター解除」
「……良いのか?」
 その言葉を予想はしていたとは言え、やはり驚きは隠せない。
「ええ、責任はわたしが取りますから」
 リュウガが「にこっ」と微笑む。戦場の只中とはとても思えない様な自然な笑顔。
 初めから艦長だけに責任を取らせる考え等毛頭無い副官は、その愛らしい笑顔に少し癒されつつ、矢継ぎ早に指示を出す。
「本艦の航空母艦としてのリミッターを解除する!! 機関全速!! 高速機動!! 全兵装使用自由!! ログ! ヨーコ! 頼んだぞ!!!」
「了解!!」
 元気の良い返事はヨーコのものだけだったが、操舵を任されているログの目の輝きが変わった事は、皆が解っていた。
 四〇〇メートルを超える巨艦の船速が突如として速くなる。機械神の仮の姿であるこの超空母が、その力の片鱗を見せ始め出した。
「敵艦増速!! 推定速力四〇ノット以上!!!」
「何!?」
 アーチャ−フィッシュの艦内が驚きに包まれ始めるのより早く信濃が次なる行動に出る。
 信濃の艦橋前後に装備された大口径単装主砲塔が、呪装艦に向かって指向する。
 いや、単装砲と呼ぶには幾分か間違いがある。この六角形の長大な単装砲身の砲口部を良く見ると、特徴的な六角形をした砲身には、幅十八インチの穴が三つ程開いていた。
「四十六センチ三連装乙型砲塔」それがこの単装砲塔の正体だった。アリシアの騎乗する「武蔵」の強力な主砲も、姉妹艦らしくこれとまったく同じ物を積んでいる。
 その二門の巨大な砲身から電磁軌道が唸りを上げて六発の大型砲弾を打ち出す。
 突然の大口径砲弾の至近弾を食らい「魔導要塞」が大きく傾ぐ。
「!?」
 その主砲弾の後を追う様に信濃の機銃甲板に備えられた多数の高射砲塔……否、「副砲」から大量の砲弾が吐き出された。
 副砲と言えどもその口径は「二十八センチ」それは「巡洋戦艦」の主砲口径にも匹敵する大きさだ。
 まさに「砲弾の雨」と言う物が「呪装艦」に降り注ぐ。
 アーチャ−フィッシュも負け時と、その魔導器から必殺の雷撃呪文を打ち出すのだが、敵巨艦のあまりの高速機動に、あさっての方向に着弾するばかりであった。
「敵艦の機動に攻撃呪文の照準が間に合いません!!」
「……あの図体で何という機動性能だ!?」
 だが、これだけの強敵を図らずも相手にしてしまっても、呪装艦を任されているこの男はまだ冷静さは失っていなかった。
「帝国軍もそれなりに新兵器を作っていると言う訳か……輸送艦や工作艦ばかりのおののけ海軍と馬鹿にする将軍どもの気が知れんな……」
 実際帝国軍の正式公開されている兵器と言うものは「工作空母」や「特務輸送艦」等の支援艦艇がかなり多い。その正面装備の少なさだけで龍樹帝国軍の総戦力を判断したがる高官を、魔法使い達は忌み嫌っていた。龍樹帝国の情報統制の凄まじさを「たかが亜人の軍隊」と鼻で笑うだけなのだ。
「……だがこちらもこんな所で引く訳にもいかん!!!」
 後ろを振り向く。
「機関長!!」
 この狭い艦橋内の最後部に控える魔導士を呼び出す。
「浮揚器は使えるか!?」
 機関長を務める魔導士が、オーバーヒート気味の稼動を余儀なくされている主機関をなだめながら答える。
「行き成りテストも無しでか!?……そうだな、動く事は動くが何時火を噴いても知らんぞ!」
「上等だ」
 艦橋内に詰める魔導士達に、未曾有の敵艦を沈める為の更なる行動を促す。
「飛ぶぞ!! 変形して一気にケリを付ける!!!」
 重力制御装置「浮揚器」の起動によってアーチャ−フィッシュの周りの海面が、その重力異常によりえぐれたように一瞬離没する。
 そして次の瞬間には艦底から水素ロケットモーターの炎を吐き出し、宙に舞い上がっていた。
 身体にに今離水したばかりの海水を纏ったままの呪装艦が、その「真の姿」を現し初めた。
 そのモジュール構造の艦体各部が轟音を上げながら本来の位置へと移動して行く。
 巨大なスタビライザーは背中に固定され文字通り飛行を助ける「主翼」となる。潜水艦らしからぬ鋭角的なパーツは各部に広がりこの巨体に高機動をもたらす「バインダー」となった。
 あきらかに先程と駆動音が変わっている。これは機導戦艦が「戦艦」から「人型」に可変した際に起こる特徴的な現象だ。戦艦時とは駆動部の数もメインエンジンのパワー消費も桁違いであるためだ。
 鋼鉄の巨人が海上に姿を現す。これが「呪装艦 アーチャーフィッシュ」の真の姿だ。
 滞空するアーチャーフィッシュがギリギリと「首」を廻らし、巨大空母を見据える。
「……へ〜、あの魔法戦艦、変形も出来るんですねぇ〜」
「なにをそんな呑気に!?」
 敵に奥の手まで出させてしまったこの超空母の艦長とは思えないとぼけた台詞に副長が思わず突っ込みを入れる。
 空を飛ぶ呪装艦「アーチャ−フィッシュ」が、高速で信濃と交差するコースを取った。
 すれ違いざま、アーチャ−フィッシュの魔導器から大きな球状の水の塊の様な物が吐き出された。魔導器自体は今は「呪導機」としての本来の位置、両肩に収まっていた。
 その巨大な水球が内側から破裂する様に拡散すると、狙いすましたように信濃の艦上に降り注ぐ。
 アシッドレイン「酸の雨」の呪文である。
 信濃も高速で回避運動に移るが、今回ばかりはその四〇〇メートルを超える巨体が災いし艦尾の辺りにその強酸の雨を浴びてしまった。
 ぶすぶすと嫌な音を立てながら信濃の分厚い装甲が爛れて行く。
「右舷後部に被弾!!」
「ログ!! 急速回頭!! 敵に後ろを見せるな!!!」
 無口な操舵手に操られた超空母が、金属同士が軋む音を盛大に上げながら、その進路を強引に捻じ曲げていく。
「このままじゃマジにやばいよ!! どうするリュウガ!?」ミカから悲鳴が上がる。必死にその主砲で迎撃するヨーコも同じ気持ちだ。
「……リュウガ」今まで必死に艦を制御して来た副長も、いささか疲れた表情を見せ始めていた。
 その艦長はと言えばこの危機的状況の只中にも居ると言うのに、先程と何も変わらずのほほんとした表情を見せている。だがその何時もと同じような穏やかな表情の奥で目の輝きが変わっていた。
「……わたしが出ます」
 リュウガはそう言いながら様々な機械類で埋め尽くされている艦長席を立つ。
「!!」
 その場にいる全員がリュウガの真意に気がついた。
 副長が一番に行動を起こす。
「だ、だったら俺もでるよ!!」
「だめですよ、今副長がいなくなったら誰がこの艦を操艦するんですか?」
 艦長、副長が何らかの理由で居なくなった場合は、通信士が最先任になり操艦を行う事が予め決められている。
 だが今のミカはまだこの「空前の巨大空母」の操艦などと言うものには殆どなれていない。そのミカも心配そうな顔を副長に向けていた。
「それに今は殆どの乗員がKL区に行ってますからね、手空きの者はわたしぐらいしかいないんですよ」
「……解かった」
 リュウガが指示を出す。
「副長、後の操艦は任せます。ミカ、『白虎』と『翠雀』に自動航法の設定を、主操作を『玄武』に回して下さい」
「……了解!」
 みんなの了解の声を聞くのも少しにして、リュウガは艦橋を飛び出すと自分の新たな持ち場に向かって駆け出した。





 アーチャ−フィッシュの攻撃は続く。
 もはや五〇ノット近い船速で突っ走る敵艦は、巧みな操艦で呪装艦からの激しい攻撃を交わし続けていた。
「?」
 今まで逃げに走っていた巨大空母が急に向きを変え、此方に正対する方向に海原を走り始めて来た。
「……何を始める気だ?」
 訝しげに敵艦を見据えるヴァッシュの目の前で、信濃が突如としてその巨体を宙に持ち上げ始めた。
「!?」
 艦底から水素ジェットの火炎を噴き出し、その炎が叩き付けられた海面からは盛大に水蒸気を撒き散らしながらその艦体を押し上げて行く。
 だが驚きはそれでは終わらない。信濃の艦底と艦体両舷の巨大なパーツが分離し始めたのである。
「何!?」今まで落ち着き払っていたこの魔法剣士も、流石に動揺を隠せなくなっていた。
 分離したパーツは、艦底だった方は丁度双胴艦の様な形をしていた。そして艦体両舷だった方はどちらとも大きな盾状のパーツを両サイドに配している。
 その信濃の元パーツだった物は本体から分離すると三つともアーチャ−フィッシュに向かって飛び出した。
 そして一気に「人型」へと変形する。
「な……あいつはエアクラフトキャリアーではなく機動戦艦のキャリアーだったのか!?」
 ヴァッシュの感想は半分は正解だったが半分は間違いだった。
「大和級重機動戦艦参号艦 重機動要塞航空母艦 信濃」この巨大空母も「機械神」の仮の姿である事は変わり無い。だが航空母艦という元来は後方支援的な艦艇が「本来の使用目的」以外でおいそれと変形するわけにも行かず、そこで本来機械神となった時に手足として使用されるパーツを、本体が可変して戦うほどの脅威ではないものに対して分離させて使用させるシステムが組み込まれていたのだ。
 その「強襲揚陸機動戦艦 玄武」の操舞倉に収まるリュウガは、両サイドに「機動巡洋戦艦 白虎」と、同じく「機動巡洋戦艦 翠雀」を従え敵呪装艦に向かって海上を突っ走っている。
「まだまだ驚くのはこれからですよ」
 アーチャ−フィッシュの凄まじい攻撃魔法の迎撃を物ともせず一気に差を詰めた三機は新たな行動を起こす為フォーメーションを組む。
「チェンジ!! D-1モード!!!」
 リュウガの掛け声と共にその三隻が姿を変えて行く。
 玄武の今まで両腕だった物が腰周りに収納され、白虎と翠雀がそれぞれ右腕と左腕に変形する。
 次の瞬間、姿を変えた三機が空中で組み合わされる。白虎と翠雀に装備されていた四枚の盾は二枚ずつ組み合わされ背中に巨大なバインダーとして固定されていた。
 この三機には機導戦艦クラスの敵を相手にした場合に備えてその独自の変形システムだけではなく、更にこの三機での分離合体システムが組み込まれていた。
 壮絶な駆動音がその人の形をした鋼鉄の塊から吐き出される。
 天翔ける龍……「天龍」。それがこの「機械神」に名付けられた名前だった。
 新たに降り立った機械の神は、敵に驚く暇も与えずその豪腕を振り翳して倒すべき敵に襲い掛かる。
 アーチャ−フィッシュがその一激を受け止めた。
「……フフフフ、ハァハハハハハ!!!」
 突然、魔法剣士が笑い始めた。他の艦橋内の全員がどよめく。
「面白い!! ディフュームにしては本当に面白い物を作ってくれる!!!」
 理性を完全に切り離したヴァッシュが、一人の操士となって戦いの喜びの中に離没し始めようとしていた。
 呪装艦がその巨大な指を組み合わせて呪文の印を結ぶ。次の瞬間手のひらに巨大な火球が現れ、相手に向かってを叩き付けた。

「ファイアボール!!!」
 突如として繰り出された火の呪文を、天龍が背中のバインダーを再びシールドとして展開させその火球の直撃に耐える。
「……ぐぅ!?」
 人工的に生み出された灼熱を振り払う天龍が、返す刀で右腕を敵に向ける。
「……これぐらいじゃ落ちませんよ……ロケットアーム!!」
 リュウガの声と共に巨大な右腕がアーチャ−フィッシュに向かって打ち出される。
「!?」
 まさか、機動戦艦と言う人型兵器を構成する上で、明らかに重要なパーツであるメインアームシステムを打ち出して来るとは夢にも思わなかったヴァッシュは、完全に虚を衝かれた。
「!!!」
 凄まじい衝撃がこの「呪装艦」を襲う。なにしろこれだけの巨体の右腕である。その重量は有に五〇〇〇トンは超える。それは重雷装艦大井クラスにも匹敵する大重量だ。
 豪腕の直撃を食らったアーチャ−フィッシュは左肩を大きく破壊されてしまった。その上部の魔導器が無事だったのは奇跡とも言えた。だが、あれだけの大質量物の直撃を受けていると言うのに、それ以上はダメージを与えられていない様だ。
「……まだ落ちない……流石敵国のこんな近海まで足を伸ばして来るだけの事はありますね」
 遠隔操作で戻ってきた右腕を元の位置に接続しながら、リュウガがそう感想をもらす。





 信濃艦橋内。残された者達が自分達の艦長の戦いを見守っている。
 何時もは「ぽよ〜ん」とした雰囲気を漂わせているリュウガの鬼神の如き戦いに、皆声を出すのも忘れて見入っている。
 本当ならその自慢の大型主砲で援護射撃を試みる所だが、それすらも許されない様な気配である。
 その時何かに気が付いた様に、ヨーコが呟いた。
「……ねえ、副長、ここは自分達の本土の近海なんだからさ……そっちの方に逃げちゃえば良かったんじゃないかな……?」
 ヨーコがそう言いながら右舷の方に顔を廻らした。そこには龍樹帝国本土の沿岸部が遠くの方に見えていた。
 今現在、信濃は龍樹帝国の首都である「帝国府」から運用試験の行われている「KL区」までその本土近海を移動しているだけなのである。右舷に目を移せば航行中ずっと、何基もの沿岸砲台に守られた龍樹帝国本土が見えていた。
「多分、彼女も最初は同じ事を考えていたかも知れない」
 副長がヨーコの問いに答える。
「でも、あいつは強すぎる。今まで確認されて来た枢機軍の機動戦艦とは桁違いだ……例え不利な状況になってもあんな奴を本土に近づけちゃ駄目だ。これ以上本土に近付けたらどれだけの被害が出るか解ったもんじゃない」
 そう言って副長は今まさにその強敵と戦う「天龍」を見上げた。リュウガの「天龍」は常に龍樹帝国本土に背を向けて戦っていた。それはもうこれ以上敵機を本土に近づけさせない為だった。





 アーチャ−フィッシュが再びファイアボールの呪文を放つ。
 天龍がさっきと同じようにシールドを展開させ、その火炎の渦を弾く。
 だが、その火の渦を突き抜けたそこには、砲口を此方に向ける呪装艦の姿があった。
 そう、その火球の呪文は囮だったのだ。
「!!」
「このアーチャ−フィッシュの装備が魚雷と攻撃呪文だけだと思ったか?」
 天龍に向けられたアーチャ−フィッシュの両腕が上下に展開されていた。そして展開された其処には戦艦級の野太い砲身が見えていた。
「死ねぇ!!!」
 発射された大型砲弾は狙いすましたように天龍の中央部に吸い込まれて行く。
 直撃……天龍は大きく三つの部位に破壊された……否、それは「玄武」「翠雀」「白虎」の三隻だった。
 直撃を受ける直前、強制分離していたのだ。
 しかしその急激な分離が仇となったのか各艦はバランスを崩したかの様にばらばらと海面に落下して行く。
 海面に激突すると思われたその瞬間……
「チェンジ!! D-2モード!!!」
 可変レバーを操作するリュウガの声と共に各艦が再び形を変えて行く。
「白虎」と「翠雀」が左右で合わさり、それと同時に四枚の盾が形を変え巨大な魚の尾ひれの様な形状になる。
「玄武」が重心点に各パーツを集める様に変形すると、その「白虎」と「翠雀」の上に乗る様な形で接続された。
 海を駆けし機械神「海龍」だ。
 もう一つの姿を見せた機械神はその尾ひれの様に変形させたシールド部だけを海面に着水させると、猛然と敵にむかって海上を走り始めた。
「なんだとぉ!? こいつは状況に応じて形を組み変えるのか!?」
 驚きつつも攻撃の手は忘れない。アーチャ−フィッシュの展開した両腕から砲弾の雨が海面に降り注ぐ。
 着弾の水柱の中を海龍が高速で突き進む。
「砲を装備しているのはそっちだけじゃないんですよ!」
 海龍の両肩に装備された六角形の砲身から大型砲弾が発射される。その砲は「本体」と同じ「四十六センチ三連装乙型砲塔」だ。これは「強襲揚陸機動戦艦 玄武」としての固有装備だ。
 アーチャ−フィッシュが直撃を受ける……だが、腕部外版と言う一番装甲の分厚い部分でその直撃を受け止めていた。これでは如何に「四十六センチ砲」と言えどもたいしたダメージを与えられない。
 流石この最新鋭兵器を任されるだけあって、アーチャ−フィッシュを司るヴァッシュガーランドという男は、操士としても相当な力を持っているようだ。





 戦闘は降着状態を見せ始めていた。
 双方とも、操士の実力、機体性能ともほぼ均衡していた。
 アーチャ−フィッシュ側の懸念されていた不安定なエンジンも、機関長の弛まない努力により何とか平静を保っていた。
「……どうする?」
 リュウガが考える。
 が、その考えを無理やり断ち切る様に「呪装艦」が目前にまで一気に迫って来ていた。
「!?」
 背部から水素ジェットの火炎を盛大に吐き出しながら海龍に迫る。
 リュウガが迎撃の為に海龍の巨体を動かそうとした。
 その時漆黒の夜空が、まるで昼間のように煌いた。それに続く爆発音。
 突如何処からともなく放たれた「光弾」により、今まさに迫り来る筈であった敵艦はその主装甲を簡単に貫かれ大爆発を起こしてしまったのである。
「!?」
 爆煙を上げながら海上に沈んで行く呪装艦。
「……??」
「……何やってんのよ!! リュウガ!!!」
 外部とつながる拡声器から聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえて来る。
 ちょっと耳を閉じ気味にその突然の大声を聞いていたリュウガが、その声のする方に顔を向けた。
 そこには満月を背に滞空する「黒い巨神」がいた。
 頭部から張り出した巨大な角。胸から飛び出す鋭角的な棘。漆黒に塗り込められた装甲版に覆われたその体躯。
 それは紛れもなくアリシアの騎乗する機械神「黒き雷光」だった。右腕には先程アーチャ−フィッシュの重装甲を簡単に打ち抜いてしまった劫火砲が携えられていた。
 機動戦艦どうしの殴り合いを想定して作られた分厚い装甲も、流石にこの劫火を撒き散らす大砲の力には敵わなかった様だ。
 玄武の操舞倉の映像盤にアリシアの顔が映し出された。

「助けに来てくれたんですね、アリシア」
 そう言いながらリュウガがぽんっ♪と、胸の前で両手を合わせる仕草を見せる。どうやらこれは彼女の癖の様だ。
「……もう、折角KL区に着いて落ち着いたなあと思ったらこれだもん、もっとしっかりしてよ!」
「エヘへ、ゴメンナサイ」
 敵機動戦艦の脅威も無くなり役目の終わったアリシアは、闇夜にこの武蔵の姿を隠しながらKL区への帰還する所であった。なぜ闇夜に紛れながらじゃいけなかったのかと言えば、モンタナの攻撃で大破した「空中空母飛龍」をその武蔵で懸架してKL区まで運ぶ命も受けていたからだ。
 帰還途中「なんだかエライ事になっている」という事を武蔵の早期警戒装置で知ったアリシアは、遥々連れて来た空母飛龍をとりあえずKL区に降ろし、大急ぎで劫火砲だけ担いでこの海域に駆け付けて来たのだった。
「あ、そうだアリシア、南部方面軍の出向お疲れ様です〜」
 今まで生死を懸けた戦いをしていた者とはとても思えない台詞に、アリシアはがくっとなってしまう。
「もう! あたしの事は良いから、自分の方の心配をしなさいよ!!」
 アリシアは、行き成りリュウガの「のほほん攻撃」を食らってしまった。
「……も〜、あんたは帝国で一番強い艦を任されてるんだから、もっとその自覚を持ちなさいよぅ」
 そう、何時もこうなのだった。アリシアが本気で怒っていてもリュウガのこの「ほえほえ」とした空気でアリシアはいつもその怒りをぶち壊されていた。
「……はあ。こんなに真面目に怒ってもあんたには効かないんだったわね……」
 ため息交じりで後悔の念を述べるアリシア……ご愁傷様です……。
「でも助かりましたよ〜本当に」
「そう? じゃあ今回は甘いもの一つで貸しにしといてあげるわよ」
「じゃあ大きなデコレーションケーキ作りますから、ちゃんと全部食べて下さいネ」ぽんっ♪とリュウガが、また胸の前で両手を合わせる仕草を見せながら言う。
「……望む所よ」
 実は艦長本人よりもそのリュウガの戦いを近くの海面で待機しながら見守り続けていた他の信濃艦橋スタッフの方がどっと疲れた様子を見せていた。心配疲れだろうか? あまり表情を表に出さないログまでもぐったりと頭を落している。
 普段はその気難しさが軍内に知れ渡っているアリシアが、うちの艦長殿に軽くあしらわれているのをみて女の子組が「とほほ」と呟く。
「……流石に雷帝様も、リュウガの天然ぼけにはかなわないのね……」
「あはははは……はあ」
 図らずも姉妹艦に助けられた最強空母は、共にKL区へと帰還して行った。





「……というかリュウガ……何で、あんたエプロン着けてんの?」
「あれ?」


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