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外伝3 kissより簡単?


「へー、で、結局その男の子のこと、アニスとアニタ二人して好きになっちゃったんだ?」

「うん、やっぱり双子だから、好みも似ちゃうのねぇ〜」

「ほんとほんと」

 ここは信濃の中の、食堂と酒保の丁度間にある喫茶室。

 この部屋自体は大き目のテーブルと壁に固定された椅子が置いてあるだけなのだが、食堂や酒保で買い求めた飲食物等を持ち寄ってお喋りなどしたりする、乗員の談話スペースとなっている。

 今は、六人の女の子達が恋の話に興じていた。

 最初は、シフォンが一人で「輪転器駆動理論」なんて言う難しそうな本を読んで勉強していたのだが、それに気付いたアニスとアニタが興味津々で近寄り、その次に酒保に買い物に来たヨーコが酒保係の二人がいないので、周りを見てみると二人が喫茶室にいるのを発見し、最後に食堂までアリシアを連れて一緒にお茶しに来たリュウガが通りかかった、と言う状況だ。

 で、女が沢山寄ればなんとやらで、何時の間にやら恋の話になっていた。

「そう言えばアリシアさんてば、その辺の話ってどうなの?」

 アニスが、この場にいる事自体が非常に不思議な女性に、話を振った。

「ん?」

 暫しの沈黙。

 アリシアはリュウガが食堂から持ってきたコーヒーを丁度飲むところだったので、喋ろうと思っても喋れなかった。

 他の者達が、やはりアリシアはこう言う場の雰囲気は嫌なのか? と、心配になった時、唐突に口を開いた。

「あたし、多分ここにいるあんたたちよりも経験早いわよ」

「え!? 意外〜」

 アニスとアニタとヨーコの三人が揃って声をあげる。最年少のシフォンも興味津々といった顔だ。

 また、人付き合いの悪さが有名なアリシアが、こんな質問に素直に答えていること自体も、意外だ。

「あたしは子供の頃から背もでかかったから、自分の年を誤魔化して結構上の奴とも付き合ってたのよ。だからもう子供の時分に一通りのことは済ましたわ」

「へ〜おとなぁ〜……でもアリシアらしいって言えば、アリシアらしいネ」

 ヨーコが、感心したように言う。

 その時今まで静かにコーヒーを飲んでいたリュウガが、突然口を開いた。

「アリシアとわたしって、キスしたこともあるんですよ〜」

「……え? ……えええぇ!?」

 その行き成りの告白に、当事者の二人以外の全員が、声を上げた。

「ええ!? 二人はそんな関係なの!?」

 ついつい、リュウガとアリシアの二人がそんないけない関係をしている最中の事を想像してしまう。

 二人とも相当綺麗な顔立ちをしているので、二人で抱き合っている姿は流石に絵になるだろうなぁと思っていると、アリシアが特に否定もせずに、涼しい顔のままコーヒーを飲んでいるのが目に入る。

 昔からアリシアの事もリュウガの事も良く知るヨーコは、こんな事をいきなり言われても特に動じていないアリシアの姿を見て、自分なりの答えを出した。

「ねえ、キスしたっていってもさ、どうせどっちかが負傷したとかで、口移しで薬飲ませたとかじゃないの? あとは人工呼吸とか?」

「え〜、なんですぐわかっちゃうんですか〜」

「やっぱり」

「えーそうなんだー」

 ヨーコの指摘にアニスとアニタが少し残念そうに声を上げる……何故、二人ともそんなに残念??

「だってアリシアが全然取り乱してないんだもん、すぐ解かるよ……あ、そうだ」

 ヨーコが何かを思い出したように言う。

「ねえ、みんな、その……背伸びしてキスしたことある?」

「背伸びしてキス?」

「うん」

「ヨーコはしたことないの?」

「……うん、生まれてこの方、自分より背の高い彼氏が出来た事がないもんで」

 考えてみればここにいる六人は、皆背の高い女性ばかりだ。

 リュウガの180cmを筆頭に、ヨーコの175cm、アニスとアニタの双子は少し小さめで174cm、一番低いアリシアとシフォンでさえ170cmもある。

 背の高さと言うのは女の子にとっては悩みの一つだ。アリシアに至ってはそれがトラウマを作る要因にもなってしまった。

「あ、わたし、ありま〜す」

 まず、シフォンが手を挙げた。

「シフォンちゃんは、まだ良いよ、170ぐらいならシフォンちゃんより背の高い男はいっぱいいると思うし……アリシアも子供のころしたんだったら背伸びしたんだろうし……」

 今度はエルフの双子の方に目を向ける。

「私あるよ、自分より背の高い彼氏できたこと」

「私もあるよ。姉さんとはちゃんと違う彼氏だよ」

「え〜、そうなのぉ……う〜ん、二人は私と殆ど同じ身長なんだけどなぁ〜」

 ヨーコが最後に助けを求めるように、最長身の娘の方に振り向いた。

「わたしもありますよ。彼氏ってわけじゃないですけどね」

「えええ!? マジでぇ!!?」

「わたしの育ての親のオーガのひとは、身長が190cmあるんですよ。そのひとの頬っぺたにチュッとした時には、さすがにわたしも背伸びしましたよ」

「……あんただけは信じてたのに……」

「でもヨーコはオーガ族なんでしょ? 周りには結構大きい男とないなかったの?」

 アニスが話を振る。

「そりゃいたわよ……でもそれが恋愛に発展するかどうかは、また別の問題だもん」

「じゃあ、お兄さんとするとか?」

「え? うちのお兄ちゃん?」

 ヨーコの兄、それは空母信濃整備班長タクトミモリの事だ。ここにいる整備士のシフォンにとっては直属の上司にあたる。

「一応ヨーコより大きいんでしょ? 頬っぺたにでもしちゃえば?」

「あのねぇ、兄妹でそんなことしても嬉しくないよ〜、それにうちのお兄ちゃんよりも、ここにいるリュウガの方が大きいのよ」

「え? そうなの?」

「うん、そうですよ。タクトさんが178cmで、わたしが180cm。わたしはヒールも履きますから、さらに大きくなっちゃいます」

 実はリュウガは、この信濃の乗員の中でも、一番背が大きかったりもする。

「う〜ん、それに兄妹でそんなことしちゃうのも抵抗あるしなぁ〜……」

「それは確かに」

「まだそれよりは、女の子同士の方が抵抗少ないかも」

 ヨーコがそう言った時、アリシアがぼそっと呟く。

「だったらリュウガに相手になってもらったら? 背もでかいし」

「へ? リュウガ?」

「はい? わたし?」

 アリシアの言葉に、二人がキョトンとしだす。

「そうよ、アリシアさんの言うとおりだよ。べつにキスはしないでもその直前ぐらいまではやってもらったら?」

「うんうん」

 双子の姉妹も、アリシアの提案を促がす様に言う。シフォンも隣りで、こくこくと頷いている。

「そっか……」

 その提案を聞いて、ヨーコがリュウガの方に顔を向ける。

「良い、リュウガ? 相手になってもらって?」


「はい、わたしで良かったら」

 ヨーコとリュウガが立ち上がる。

「どうぞ」

 リュウガが背筋を伸ばし、姿勢良く気を付けをする。

「うん」

 ヨーコは、リュウガの前に立ってみた。

「……こうしてみると、リュウガって大きいよね」

 身体が触れ合うほどの距離に近付いて見上げてみたリュウガの顔は、結構上の方にあった。

 5cmの身長差と言うものの大きさを、改めて感じる。

「こうしてみると、ヨーコって可愛いですよね」

 リュウガがそう言いながら、ヨーコの二の腕のあたりに手を添えた。

「わっ」

「え!? どうしました?」

「いや……なんか、ドキドキしてきちゃった……」

 ヨーコは、リュウガの肩の上に手を乗せた。

 そして彼女の肩を支えにして、背伸びをしてみる。

 帝国軍標準制服に含まれるヒールを履いているので、その分5cmぐらい既に爪先立ちなのだが、その上から更に数センチぐらい踵を上げただけでも、随分と印象が変わる。

「わぁっ……すごいドキドキするっ……背伸びしてキスするのってこんな感じなのか……」

 その時、リュウガが顔を近づけて来た。

「え……?」

 顔を真っ赤にして固まってしまったヨーコに向かって、更に近づける。

「……」

 二人の唇と唇がもう少しで重なろうかとした時、ヨーコは鼻の辺りに柔らかい感触を覚えた。

「ヨーコの鼻って冷たくて気持ち良いですネ」

 ヨーコのがオーガ族特有の濡れた黒い鼻に、リュウガは自分の鼻先を押し付けていた。喋るたびに、彼女の息が顔をくすぐる。

「……あ」

 自分の中のドキドキを突然止められてしまって、ヨーコは思わず不満げな声を出してしまった。

 リュウガは最初に言われた通りに直前で止めたのだが、ヨーコの胸は早鐘を打ったままだ。

「どうでしたか?」

 鼻同士をくっ付けあったままの姿勢で、何でもなかったかのように言う。

「……う、うん……」

 ヨーコは、なんだか意味不明な答えしか返せなかった。

 胸がドキドキしたままでしょうがない。そして身体の中に、なんだか良く解からないもやもやが渦巻いていた。

 このもやもやをどうにかしてもらいたい。既に相手が同姓の女の子であるとかなんて、どうでも良くなっていた。

「あの……リュウガ」

「はい?」

「……その……最後までしてくれる……?」

「きゃあーっ」

 ヨーコの言葉を聞いて、今まで事の成り行きを静かに見守っていた、周りのギャラリーの方から声が上がった。

「ヨーコってば大胆〜」

「女同士なのにぃ〜」

 ヨーコが顔を少しだけ動かして、皆のいる方に目線を向けた。

「う〜、だってここまで来ちゃったのに、それで途中で止められちゃったら嫌じゃない……私だって恥ずかしいんだから、みんなあんまり見ないでよ〜」

「大丈夫、しっかり見ておいてあげるから、がんばりなさい」

 ヨーコの心底恥ずかしそうな台詞に、アリシアが答える。と言うか何を頑張るのか?

 皆の視線が自分たちに注がれるのを痛いほど感じながら、ヨーコが再び相手に顔を向けた。

「……良い……?」

 胸がドキドキしたままのヨーコには、自分をそんな気持ちにさせた相手に対しては、それだけ言うのが限界だった。

 リュウガは少し微笑むと、一端押し付けていた鼻を離した。そして改めて顔を少し前に出した。言葉ではなく行動で、ヨーコへの返事にした。

 ヨーコは同姓とキスするのはこれが初めてだった。

 自分が生きている内に、そんな機会があるとは思わなかったが、気持ち悪いとかはあまり無かった。

 先程から踵を上げたままの脚が流石に辛くなってきたが、折角の機会なので、相手が身体を離すまでこのままでいようと思った。

 その時、喫茶室の入り口に、小さい人影が現れた。

「シフォンちゃんいますかぁ〜? ちょっと手伝って欲しいことが……」

 マリアはその光景を見て動きが止まってしまった。

 今まさにキスシーンな二人。

「……え……あ…………わぁーっ!!!」

 大声を上げると、思わずその場から逃げ出してしまうマリア。

「や、やっぱり、リュウガさんとヨーコさんがそんな関係だったなんてぇーっっっ!!!」

「やっぱりってなによぉーっ!?」

 リュウガから身体を離すと、ヨーコが誤解を解くべく、もの凄い勢いで走り去るマリアを追いかける。いや、誤解かどうかは、また別の問題だが。

「あーん、先輩まってぇーっ」

 シフォンもそれに続く。

「いや〜まいりましたねぇ〜」

 残されたリュウガは、ヨーコとのそんなシーンを誤解されたままでも、特に慌てる様子も無い。いや、彼女の性格ならば、これが普通だ。

「……で、結局こう言うオチな訳ね」

 そう静かにまとめつつ、冷えたコーヒーカップに口に付けるアリシアの隣りで、双子の姉妹が苦笑していた。


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